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トマオナの部屋

医学を勉強しながら、日々妄想したことを書いてます。

蜘蛛の糸

 高校時代の記憶の中に1つ奇妙な思い出がある。

それは何てことない日常の1シーンだ。
なのに、一体どういうわけか強烈に頭に焼き付いていてずっと忘れられない。

今朝もそのときことをぼんやり思い出していた。


~回想シーン~

それは私が北本(仮)という友人と学校から家に帰る道を連れ立って歩いていたときのこと。いきなり彼は「うっ」と唸ると両手を顔の前でパッパッと振り始めた。顔に付いた虫を振り払うような仕草だ。びっくりして「どうした!?」と尋ねると「いや、顔にクモの巣がかかって・・・」と相変わらず手をふりふり言う。

この返答に私は驚いた。というのも、そこは顔にクモの巣がかかるような場所ではなかったからだ。道路は広いし、1車線だがすぐ横を車がブンブン走っている。顔の位置に巣を張れるような電柱とか、看板(?)の類も近くにはない。それにそこは私を含めた600人以上の高校生が毎日行き来する通学路のド真ん中だ。普通に考えて顔にクモの巣っていうのはあり得ない。

「ここでクモの巣っていうのはあり得ないでしょ」

「いや、おんねんで、そういうの…この前テレビでやってた。わざと人通りの多いところに巣を構えるクモがおんねん…そうそう、俺ずっと不思議に思ってて、みんなは分かってくれないんやけど、俺たまにこういう風に顔にクモの巣かかることがあって、これ何なんやろなーって思ってたら、そのクモのことがテレビでやってて。あーこれのことかーって」

「…はぁ~」

~回想終わり~


もし第三者の誰かがこれを読んだら、イマイチ釈然としないというか、何とも煮え切らないというか、ともかく歯切れの悪い印象を受けるかもしれない。私自身、回想の中で「…はぁ~」と言っているときには何とも煮え切らない表情をしていた記憶がある。心の底では納得していないけれど、ムキになって言い返すこともできない、そういうときの歯がゆい感じ。

謎多き彼の発言の中の“クモの巣”の正体は一体何だったのか。あれから1年以上経った今、当時を振り返って考えた。


最も単純な解釈を与えるなら、彼の気のせいだったということだろう。あるいは飛んできたホコリとか塵とかをクモの巣と思ったのかもしれない。
実はこの北本という人間は少し天然なところがあって、こっちがえっ!?と思うようなことを突然ぽろっとこぼすことが稀にある。(私はそんなところも含めて彼が大好きだ。)だから、きっと今回もそんな天然っぷりをちょこっと発揮してくれたのだろう…そう考えれば、これは別に驚くようなことでもないし、すぐ忘れてしまっても構わないようなささいな出来事だ。

でも私は彼の『みんなは分かってくれない』の言葉が妙に気になる。あの“クモの巣”を気のせいだったの一言で片付けてしまうのは、何というか、私の直感に反している気がする。
(あくまで気がするだけ)

もし、仮にあのときあの場所に本当にクモの巣があったとしたら。


1車線の道路を横切るように、つーっと透明な糸が空中に浮かんでいる。

その情景をイメージしてみる。

みんなはその糸に気付かない。しかし、北本はそれに触れて、それに気付いた。

そういうことを想像すると、私は胸の辺りがざわついて、怖いのか楽しいのかなんとも言えない気持ちになってしまう。